Archive for the ‘医療法人の役員報酬・役員賞与’ Category
医療法人の人件費について分かりません
個人事業の場合には超過累進税率が適用されるため、所得が上がるほど税率も上がり、高額な所得税と住民税を納付しなければなりません。売上から経費を差し引いた金額は所得となり、直接その所得に高い税率をかけることが可能です。それに対して、医療法人化すると所得を親族に分散することや、税率を下げることが可能となります。医療法人から給与として支払いを受けた際には、給与所得控除が受けられるのでその分が節税となります。
給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じた一定の算式で計算されます。平成25年より、収入が1,500万円を超える際の給与所得控除額については、245万円の定額とすることと改正されました。これに伴い、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)」、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」及び「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」が改正されています。この改正は、平成25年1月1日以後に支払うべき給与等について適用されています。
医療法人において理事長は給与所得者となるため、役員報酬から給与所得控除を差し引いた金額が課税所得となり、給与所得控除分が節税できます。また、青色専従者だった妻が医療法人の理事に就いたときには、所得の区分は給与所得のまま変化しませんが、経営の一端を担うことでより多くの給与を医療法人から受け取ることが可能です。その分、院長は経営責任の一部が軽減されると判断して、個人診療所の事業所得より少ない報酬額に抑えるのが一般的で、所得税の累進税率構造から考えて家族トータルとしての税額が減少するため節税効果があります。
医療法人の理事の報酬について教えてください
平成18年度の税制改正では、役員報酬、役員賞与など、法人が役員に対して支給する給与は「役員給与」とひとくくりになりました(以前は、法人税法上も役員報酬・役員退職給与の取扱いは原則損金算入、役員賞与は損金不算入となっていました)。この改正の背景には、会社法361条(取締役の報酬等)で「報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と規定し、役員報酬、役員賞与ともに業務執行の対価として同規定に基づいて支給されることになったことや、企業会計上も「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準委員会、平成17年11月29日)により、役員賞与を発生した会計期間の費用として処理することになったことが挙げられます。ただし、役員に対する賞与(従業員で言うところの夏冬のボーナスのようなものなど)が無制限に認められたわけではありません。平成19年4月1日以後に開始する各事業年度において、「法人が役員に対して支給する給与」の額のうち、一定のものに該当しないものは損金の額に算入されない(したがって法人税の計算上、税金がかかってしまう)という規定に変わりました。なお、「法人が役員に対して支給する給与」からは、(イ)退職給与、(ロ)法人税法第54条第1項に規定する新株予約権によるもの、(イ)・(ロ)以外のもので使用人兼務役員に対して支給する使用人としての職務に対するもの、(ハ)法人が事実を隠ぺいしまたは仮装して経理することによりその役員に対して支給するもの、は除かれます。((イ)退職給与については役員給与には該当しないものの、従前通り「不相当に高額な部分の金額」を除き、原則的に損金に算入されます。)
たとえ形式的に一定のものに該当する場合でも、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入されません。損金算入できる役員給与としては、(1)定期同額給与、(2)事前確定届出給与、(3)利益連動給与(同族会社には認められていない)の3つのうちいずれかに該当しなければなりません。
(1)定期同額給与
・支給時期が1ヶ月以下の一定の期間ごとであること。
・その支給時期における支給額が事業年度を通じて原則同額であること。(業績の著しい悪化にともなう減額など一定の例外規定もある)
・事前の定めがあること。(議事録の作成等が必要)
(2)事前確定届出給与
・支給時期、支給額があらかじめ定められており、その内容に関する届出書を所轄税務署長に提出していること。
(3)利益連動給与
・業務執行役員のすべてに支給すること。
・算定方法が有価証券報告書に記載される利益に関する指標を基礎とした客観的なものであること。
・支給限度額が定められていること。
・すべての業務執行役員について算定方法が同じであること。
・同族会社には認められない。(損金算入できない)…など
このように、損金算入できる役員給与にはかなりの制限があります。利益が出たからといって事業年度の途中で増額するような役員給与は、「定期同額給与」の要件に該当しないこととなり、全額が損金不算入となります。
役員に対する給与のうち、使用人兼務役目に対して支給する「使用人としての職務に対する部分」については、この規定を受けることはありません。使用人兼務役員とは以下の条件を満たす者を指し、医師以外の役員の場合は使用人兼務役員となる方もいるでしょう。理事長の奥様であっても該当する可能性があるので確認が必要です。
<使用人兼務役員の条件> (法人税法施行令第71条)
使用人兼務役員とは、役員のうち部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者を指しますが、次のような役員は使用人兼務役員となりません。
1. 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
2. 副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
3. 合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
4. 取締役(委員会設置会社の取締役に限ります)、会計参与及び監査役並びに監事
5. 同族会社の役員のうち一定の要件を満たす役員
なお、医療法人は医療法に基づいて設立された法人であり、医療法において剰余金の配当が禁止されているなど、会社法に基づき設立された営利法人とは異なり同族会社には該当しないため、医療法人は5については考慮する必要はありません。役員給与は実務上、役員の職務内容や医療法人の収益状況や他の使用人との比較で決定されます。医師である理事に対する報酬決定のポイントは次のようなものです。医師以外の役員に対する報酬も基本的には以下の条件と同じですが、医師である理事よりも医師以外の理事の報酬が高いというケースはほとんどないと思われるので注意しましょう。
(1)常勤か、非常勤か、職務内容に対して相当か
非常勤の理事に高額の支給をした場合は否認される恐れがあります。
(2)医療法人の収益状況・他の使用人との比較
法人の決算内容と比較して支給額が不自然でないか、他の使用人に比べて極端に高すぎないか等を判断します。
(3)同種同規模の医療法人の役員給与と比較
同種同規模の医療法人と比べて極端に高すぎる場合は、否認される恐れがあります。(ただし、院長が他の法人の役員の給与額を知っていることはほとんどないと思われるので、多くのケースを熟知している顧問税理士等と相談するとよいでしょう。)
一度決めた役員報酬の金額を「かなりの利益がでそうだから」といった理由で安易に上げることは、損金算入される役員給与の条件を満たさないため結果的に節税どころか法人税がさらに課税される可能性が高いです。前もってしっかりとした事業計画を立て、これに基づいて慎重に役員報酬の金額を決めることが重要です。
医療法人の解散について教えてください
医療法人は下記の事由が生じた場合に解散となり、その際の残余財産は払込済出資額に応じて分配されます(旧法)。
・目的たる業務の成功の不能
・社員総会の決議
・社員の欠亡
・破産手続開始の決定
・他の医療法人との合併
・設立認可の取消
平成19年4月以前(旧法)では、法人の持分を売却することで法人財産であるところの医療機器やカルテなど、すべての資産負債を譲渡することが可能です。値段は医療機器などの資産から未払金などの負債を差し引いた純財産のほか、一般的に診療所の収益力も加味されるので今まで培ってきた暖簾(診療所の営業権)も無駄にはなりませんし、新しく始める方にとっても開業当初の収入不足に悩まされることはありません。
法人の持分である非上場の株式等を売却した場合、売却価格から出資額または購入価格を差し引いた金額を譲渡所得として申告します。譲渡所得は他の所得とは別の申告分離課税になり、所得税と住民税を合わせて20%の税率となります。また、法人売却にともなって役員を交代することになるので、先に退職金の支給を受けておくのもよいでしょう。退職金の支給によって売却価格が下がるうえに、退職所得(分離課税)は税務上有利な設定なので検討するべきです。
旧法では、買い手がいないときには知事の認可を得て法人の清算手続きをとることになります。つまり、個別の財産を一つ一つもしくは一括して売却して未払金などの負債は返済し、残額を各出資者に持分に応じて分配することになります。出資額限度法人の場合には出資額を限度としての払戻しであり、解散により残余財産の分配を受けた出資者は、交付を受けた金銭が法人の資本金等の額を超える際にはその差額を配当所得として申告しなければなりません。この場合、配当所得は他の所得と合算して計算して所得税と住民税が算出されます。通常は配当所得よりも退職所得の方が有利になることが多いので、先に役員退職金の支給を受けておいて退職所得として申告することも検討しましょう。解散や譲渡を検討している場合は残余財産のことを考慮して、役員報酬や退職金を適切に設定するなど計画的に運営していくことがポイントです。
しかし、平成19年4月以降に認可された基金拠出型の医療法人では、非営利性の観点から財産の分配ができなくなりました。これまでは、収益が出た法人を利益の分配目的で意図的に解散させるという、医療法人の根本にある非営利性を否定する行為を排除できない問題がありました。そのため平成19年4月以降に設立された医療法人では、解散時の残余財産は国や地方公共団体、あるいは他の医療法人等に帰属させることとなりました。今後は、後継者が決まっていない医療法人での設備投資や資産運営など慎重に検討する必要があります。
医療法人の関係法令について教えてください
医療法人の根拠法令としては、医療法、医療法施行令および医療法施行既則があります。医療法は昭和23年に、「医療を提供する体制の確保を図り、もって、国民の健康の保持に寄与する」ことを目的に制定された法律で、営利を目的として病院、診療所等を開設することは否定されており、また配当も禁止されています。医療法人制度の目的は、医療事業の経営主体を法人化することによって資金の集積を容易にするとともに、医療機関等の経営に永続性を付与し、私人による医療事業の経営困難を緩和することにあります。また、医療法人は、その主たる目的が(公共性の高い)医療事業の経営ですが、公益法人とはみなされていません。また、剰余金の配当が禁止されているなど、営利法人の枠からも除外されており、株式会社とは一線を画す法人形態といえます。
医療法第54条では、医療法人は剰余金の配当が禁止されています。医療法人で収益が生じた場合には、施設の整備や法人職員の待遇改善等に充てる以外は、医療の充実のための積立金として預金・国公債等元本保証のある資産によって留保しなければなりません。また、特に注意すべきこととして、配当ではなくても事実上利益の分配とみられる行為も禁止されています。事実上の利益分配と考えられる行為の例は以下のようなものがあります。医療法人の剰余金の配当禁止については都道府県庁も厳密に取り締まっているので、事実上の利益分配と考えられる行為の有無を確認してください。また、医療法人が剰余金の配当をした場合、または事実上の利益分配と考えられる行為をした場合は、医療法第76条第5項規定によって理事または監事は、20万円以下の過料に処されます。
・正当な根拠がなく、役員および社員もしくはこれらの者と親族関係にある者(以下、役員等とします)に対して、医療法人の資金等を貸し付けること。
・医療法人が、役員等やMS法人が所有等している資産を過大な賃借料で賃借すること。
・役職員に対して、算定根拠や支払根拠が不明確、または額が過大な退職金を支払うこと。
・役職員の勤務実態と比較して、過大な給与または役員報酬の支払いをすること。
・医療法人が第三者(役員等を含む)の債務を保証すること。
・第三者名義(役員等を含む)の債務を医療法人へ名義を移転すること。
Q.出資持分の定めのある社団医療法人について、理事長の出資持分に係る相続対策をどのように講じればいいでしょうか?
A.相続税の重い負担や遺産分割に関わるトラブルにより、病院の存続に影響が出ることもありますので、あらかじめ相続税についてシミュレーションし、納税資金の確保等も含めた対策を講じておくことが重要です。
1.後継者への出資持分の承継
後継者への出資持分の承継は、出資持分の定めのある社団医療法人の理事長が抱える重要な課題です。なぜなら、出資持分はその評価が高額に上る場合が多く、後継者を初めとする相続人の相続税に大きな影響を及ぼすからです。
後継者を初めとする相続人にかかる相続税がどの程度の金額となるのかをあらかじめ認識した上で、長い時間をかけて相続税対策を考えていくことは重要です。
2.理事長の相続財産等の把握
理事長個人の相続財産と債務を全体的に分かった上で、相続税を納税するための資金がいくら必要なのか、また、その額があるのかを確かめて、後継者を始めとする後継者に対する財産の分割方法を考えます。事前に確認すべき事項として、例えば次のようなことが挙げられます。
(1)理事長から医療法人への貸付金はあるのか。
理事長から医療法人への貸付金、つまり医療法人にとっての借入金は、理事長個人の相続財産となります。
(2)医業用不動産(土地、建物)の所有者は理事長であるのか。
相続財産の評価は相続税評価額により行いますが、一定の要件に該当する土地であれば、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることによって、最高80%の評価減となります。
(3)理事長の換金可能財産はどの程度あるのか。
相続税を納税するための資金や、後継者以外の相続人への分割財産を確保することができるのかを確かめます。
(4)理事長の出資持分はどの程度の評価額となるのか。
出資持分は後継者に承継されると思われますから、理事長個人の相続財産のうちで出資持分はその評価がどの程度になるかを理解する必要があります。
3.事前に出資持分の評価を行う必要性
医療法人の出資持分は、理事長の相続財産のうちで最も重要なものの一つであるといえます。その
評価は相続時点における評価額となりますが、医療法人においては法律上、剰余金の配当が禁止され
ていますので、長い間にわたって利益が生じている法人ではその内部に利益が蓄積し、相続時点での
出資持分の評価額が設立当初の出資額を大きく超過するケースが数多く見受けられます。
このように出資持分の評価が高くなり、後継者に医業承継財産が集中すれば、出資持分は換金性が
ありませんので、後継者たる相続人が納税資金不足に陥る可能性があります。
それゆえ、後継者に対する円滑な事業承継のためには、第一に現時点における医療法人の出資持分の評価を行い、後継者の相続税がどの程度の金額になるのかについてシミュレーションすることが大切です。
4.相続対策
出資持分の評価が高くなっているなら、後継者の相続税が多額となると予想されます。ゆえに、事前に出資持分の評価の引下げを図り、出資持分を部分的に後継者へ移転させることによって相続財産そのものを理事長から切り離したり、いかにして納税資金を確保するのかを考えたりすることが必要となります。
(1)出資持分の評価の引下げ方法の具体例
出資持分の評価を引き下げる方法として、例えば、理事長の勇退による退職金の支払いが挙げられます。退職金の支払時といった多額の経費が発生する際には、法人の純資産が減少しますので出資持分の評価が下がります。そのタイミングで出資持分の後継者への移転を行うといいと思われます。ちなみに、移転方法には譲渡及び贈与があります。
(2)納税資金を確保する方法の具体例
後継者が既に医療法人の理事等に就任しているのであれば、不相当に高額とならない程度に、未来の納税資金をある程度意識した役員報酬を設定するといいでしょう。
また、生命保険を利用し、理事長に相続が発生した際に医療法人が遺族(後継者)に支給する死亡退職金を納税資金に当てる方法等もあります。
Q.医療法人の役員の給与は、損金算入できますか?
A.法人が役員に支給する給与のうちで一定の給与に当てはまるものについては、不相当に高額な部分の金額以外は損金算入できます。
なお、原則として、退職給与は、不当に高額な部分の金額以外は損金算入できます。
1.税制改正前における役員の給与の取扱い
2006年度の税制改正前においては、役員の給与が「役員報酬」(月給のような定期の給与)、「役員賞与」(臨時の給与)、「役員退職給与」に分けられていました。法人税法において、役員報酬及び役員退職給与は損金算入できるのが原則で、役員賞与は損金算入できないことになっていました。ただ、役員報酬及び役員退職給与のうちで不相当に高額な部分は損金算入できず、役員賞与のうちで使用人兼務役員に支給する使用人分の賞与で一定の条件に当てはまるものは損金算入できることになっていました。
2.役員給与のうちで損金算入できるもの
2006年度の税制改正で、役員報酬や役員賞与といった法人が役員に支給する給与は、法人税法に「役員給与」として一括して定められました。
この改正の背景には、次に掲げることが存在します。
・会社法第361条(取締役の報酬等)に「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」と規定され、役員報酬及び役員賞与がこの規定に基づき職務執行の対価として取り扱われることになったこと。
・企業会計上も、「役員賞与に関する会計基準」(企業会計基準委員会、2005年11月29日)で「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する」とされたこと。
上記の「一括して定められ」たというのは、2007年4月1日以後に始まる各事業年度で、「法人が役員に支給する給与」のうち、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与のどれにも当てはまらないものは、損金に算入されないと定められたという意味です(ただ、同族会社に関しては、利益連動給与は損金算入できません)。定期同額給与、事前確定届出給与、又は利益連動給与に当てはまれば、不相当に高額な部分の金額を除いて損金に算入できます。
次に、定期同額給与、事前確定届出給与又は利益連動給与として認められる条件を述べます(ただ、不相当に高額な部分は損金に算入できません)。
(1)定期同額給与
・支給時期が1ヶ月までの一定の期間ごとである。
・その支給時期の支給額が事業年度を通じて原則として同額である(ただ、業績の著しい悪化による減額等の場合についての一定の例外規定も存在します)。
・事前の規定が存在する(その内容について議事録等を作成しておく必要があります)。
(2)事前確定届出給与
支給額と支給時期があらかじめ規定されていて、所轄税務署長に対してその内容についての届出書を提出している。
(3)利益連動給与
・業務執行役員の全員に支給する。
・算定方法が、有価証券報告書に記される利益についての指標に基づいた客観的なものである。
・支給限度額が規定されている。
・算定方法が、業務執行役員の全員に関して同じである。
・同族会社ではない。 等
ちなみに、医療法人に関しては、利益連動給与として認められる条件に当てはまる可能性はないと
思われます。
利益が発生したことで事業年度の途中において増額するような役員給与は、定期同額の条件に当て
はまらず、全額が損金に算入されないことになります。損金算入が可能な役員給与には、制限がかな
り存在します。
3.役員給与から除外されるもの
次のものは、上記2の「法人が役員に支給する給与」から除かれます。
(1)法人税法第54条第1項に定める新株予約権によるもの
(2)退職給与
(3)上記(1)・(2)を除いたもので使用人兼務役員に支給する使用人としての職務に対するもの
(4)法人が事実を隠ぺいし又は仮装して経理することでその役員に支給するもの
上記(2)の退職給与は役員給与ではありませんが、以前と同じく「不相当に高額な部分の金額」以外は損金に算入できるのが原則です。
4.使用人兼務役員の条件
上記3の通り、役員の給与のうち、使用人兼務役員に支給する「使用人としての職務に対する部分」に関しては、この規定の適用はありません。
医師以外の役員の中には、使用人兼務役員となる人も存在するかもしれません。理事長の奥様についても、使用人兼務役員といえることがありますので、留意が必要です。
役員のうちで、部長、課長、その他法人の使用人としての職制上の地位にあり、かつ、常時使用人としての職務に従事する人を、使用人兼務役員といいますが、次の役員は使用人兼務役員には該当しません(法人税法施行令第71条)。
(1)代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
(2)副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位にある役員
(3)合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
(4)取締役(委員会設置会社の取締役のみ)、会計参与及び監査役並びに監事
(5)同族会社の役員のうち一定の条件に当てはまる役員
上記(5)は、医療法人には関係ありません。それは、医療法人が医療法に基づいて設立された法人であり、医療法においては剰余金の配当が禁止されていること等によって、会社法に基づいて設立された営利法人とは異なり、同族会社には該当しないためです。
いかなる程度の役員給与が適正であるのかは、実務において、役員の職務内容や、他の使用人の給与、医療法人の収益状況に照らして決められます。
5.医師である理事の給与の決定のポイント
(1)常勤か非常勤か、職務内容に応じた給与であるか
非常勤の理事に対して高額の支給をすれば、否認される可能性が存在します。
(2)他の使用人の給与や医療法人の収益状況との比較
他の使用人の給与と比べて極端に高すぎないか、法人の決算内容と比較して支給額に不自然さがないかといったことを考慮します。
(3)同種同規模の医療法人の役員給与との比較
同種同規模の医療法人の役員給与と比べて極端に高すぎれば、否認される可能性が存在します。(一般的には院長は他の法人の役員給与を知りませんので、数多くのケースをよく理解している顧問税理士等に相談されることをお勧めします)。
6.医師を除く理事の給与の決定のポイント
上記5の医師である理事の給与の決定のポイントと基本的に同様です。ただし、医師である理事の給与より医師ではない理事の給与が高いことはほとんどないと思われますから、注意する必要があります。
Q.医療法人の役員がMS法人の役員を兼務することは可能か否かを教えてください。
A.医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務は、医療法人の非営利性の観点から避けるのが無難でしょう。
そして、その他の役員の兼務に関しても、病院又は老人保健施設等を開設する医療法人とMS法人その他取引のある営利法人につき役員の重複を認めない行政指導がなされていて、診療所にも同様の指導がなされることがあります。両方の役員の兼任により行政指導がなされる場合があることに留意した上で、役員構成を検討する必要があります。
1.医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務
医療法人とMS法人は、取引関係にあり、利害が相反するといえます。このような二つの法人の代表者(理事長と代表取締役)を同一人物とする場合、同一人物が利害の相反する立場に置かれることになります。
医療法人は意思決定において原則である非営利性を徹底させなければなりませんが、MS法人は営利法人として利益の追求を行います。ゆえに、同一人物が両方の法人の代表権や業務執行権を持てば、医療法人に営利法人の影響が及ぶ可能性があり、医療法人の「非営利性」を徹底させることができなくなります。したがって、医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務は避けるべきです。
ちなみに、取引をする両方の法人の代表者が同一人物であれば、民法第108条で禁じられている自己契約・双方代理に当てはまります。ただ、単なる債務の履行に該当する場合、あらかじめ理事会又は取締役会で許諾があった場合、取締役会で承認された場合等は、双方代理禁止規定は適用されないことになっています。しかしながら、医療法人の非営利性の観点から、医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務はやはり避けるのが無難でしょう。
2.医療法人の役員とMS法人の役員の兼務(上記1以外)
医療法人では、理事長だけが医療法人を代表することが定款で定められていますので、医療法人の平理事(代表権のない理事)とMS法人の代表取締役の兼務により、医療法人の非営利性が必ず阻害されるわけではないと思われます。そして、医療法人の理事長とMS法人の平取締役の兼務によっても、医療法人の非営利性が必ず阻害されるわけではないでしょう。法律上、医療法人とMS法人でのこれらの役員の兼務が禁じられてはいません。
しかしながら、医療法人とMS法人の取引で医療法人からMS法人に過大な支払いが行われている場合や、MS法人の役員報酬の過大な支払いが行われている場合、事実上医療法人の利益の分配がなされていると解される可能性があります。
このようなことから、現状では、厚生労働省による「医療法人運営管理指導要綱」(要綱)及び「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(通知)に基づき、病院又は老人保健施設等を開設する医療法人とMS法人その他取引のある営利法人の役員の重複を認めない行政指導がなされています。そして、医療法人運営管理指導要綱は医療法人のうちで病院又は老人保健施設等を開設するものを対象としているものの、診療所にも同様の指導がなされることがあります。
通知や行政指導は、それ自体は法的拘束力を持たないことから、それらに反して両方の法人の役員を兼務すれば即違法行為となるというわけではありません。しかしながら、両方の役員を兼務すれば行政指導がなされる可能性があることに留意の上で、役員構成を検討する必要があります。
ちなみに、厚生労働省により「医療法人とMS法人間に取引関係のある場合、あるいは医療法人が出資を受けている場合は原則兼務を認めない」という以後の方針が示唆されています。