Q.出資持分の定めのある社団医療法人について、理事長の出資持分に係る相続対策をどのように講じればいいでしょうか?
A.相続税の重い負担や遺産分割に関わるトラブルにより、病院の存続に影響が出ることもありますので、あらかじめ相続税についてシミュレーションし、納税資金の確保等も含めた対策を講じておくことが重要です。
1.後継者への出資持分の承継
後継者への出資持分の承継は、出資持分の定めのある社団医療法人の理事長が抱える重要な課題です。なぜなら、出資持分はその評価が高額に上る場合が多く、後継者を初めとする相続人の相続税に大きな影響を及ぼすからです。
後継者を初めとする相続人にかかる相続税がどの程度の金額となるのかをあらかじめ認識した上で、長い時間をかけて相続税対策を考えていくことは重要です。
2.理事長の相続財産等の把握
理事長個人の相続財産と債務を全体的に分かった上で、相続税を納税するための資金がいくら必要なのか、また、その額があるのかを確かめて、後継者を始めとする後継者に対する財産の分割方法を考えます。事前に確認すべき事項として、例えば次のようなことが挙げられます。
(1)理事長から医療法人への貸付金はあるのか。
理事長から医療法人への貸付金、つまり医療法人にとっての借入金は、理事長個人の相続財産となります。
(2)医業用不動産(土地、建物)の所有者は理事長であるのか。
相続財産の評価は相続税評価額により行いますが、一定の要件に該当する土地であれば、「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」の適用を受けることによって、最高80%の評価減となります。
(3)理事長の換金可能財産はどの程度あるのか。
相続税を納税するための資金や、後継者以外の相続人への分割財産を確保することができるのかを確かめます。
(4)理事長の出資持分はどの程度の評価額となるのか。
出資持分は後継者に承継されると思われますから、理事長個人の相続財産のうちで出資持分はその評価がどの程度になるかを理解する必要があります。
3.事前に出資持分の評価を行う必要性
医療法人の出資持分は、理事長の相続財産のうちで最も重要なものの一つであるといえます。その
評価は相続時点における評価額となりますが、医療法人においては法律上、剰余金の配当が禁止され
ていますので、長い間にわたって利益が生じている法人ではその内部に利益が蓄積し、相続時点での
出資持分の評価額が設立当初の出資額を大きく超過するケースが数多く見受けられます。
このように出資持分の評価が高くなり、後継者に医業承継財産が集中すれば、出資持分は換金性が
ありませんので、後継者たる相続人が納税資金不足に陥る可能性があります。
それゆえ、後継者に対する円滑な事業承継のためには、第一に現時点における医療法人の出資持分の評価を行い、後継者の相続税がどの程度の金額になるのかについてシミュレーションすることが大切です。
4.相続対策
出資持分の評価が高くなっているなら、後継者の相続税が多額となると予想されます。ゆえに、事前に出資持分の評価の引下げを図り、出資持分を部分的に後継者へ移転させることによって相続財産そのものを理事長から切り離したり、いかにして納税資金を確保するのかを考えたりすることが必要となります。
(1)出資持分の評価の引下げ方法の具体例
出資持分の評価を引き下げる方法として、例えば、理事長の勇退による退職金の支払いが挙げられます。退職金の支払時といった多額の経費が発生する際には、法人の純資産が減少しますので出資持分の評価が下がります。そのタイミングで出資持分の後継者への移転を行うといいと思われます。ちなみに、移転方法には譲渡及び贈与があります。
(2)納税資金を確保する方法の具体例
後継者が既に医療法人の理事等に就任しているのであれば、不相当に高額とならない程度に、未来の納税資金をある程度意識した役員報酬を設定するといいでしょう。
また、生命保険を利用し、理事長に相続が発生した際に医療法人が遺族(後継者)に支給する死亡退職金を納税資金に当てる方法等もあります。