Q.医療法人の役員がMS法人の役員を兼務することは可能か否かを教えてください。

 

A.医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務は、医療法人の非営利性の観点から避けるのが無難でしょう。
そして、その他の役員の兼務に関しても、病院又は老人保健施設等を開設する医療法人とMS法人その他取引のある営利法人につき役員の重複を認めない行政指導がなされていて、診療所にも同様の指導がなされることがあります。両方の役員の兼任により行政指導がなされる場合があることに留意した上で、役員構成を検討する必要があります。

1.医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務
 医療法人とMS法人は、取引関係にあり、利害が相反するといえます。このような二つの法人の代表者(理事長と代表取締役)を同一人物とする場合、同一人物が利害の相反する立場に置かれることになります。
医療法人は意思決定において原則である非営利性を徹底させなければなりませんが、MS法人は営利法人として利益の追求を行います。ゆえに、同一人物が両方の法人の代表権や業務執行権を持てば、医療法人に営利法人の影響が及ぶ可能性があり、医療法人の「非営利性」を徹底させることができなくなります。したがって、医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務は避けるべきです。
ちなみに、取引をする両方の法人の代表者が同一人物であれば、民法第108条で禁じられている自己契約・双方代理に当てはまります。ただ、単なる債務の履行に該当する場合、あらかじめ理事会又は取締役会で許諾があった場合、取締役会で承認された場合等は、双方代理禁止規定は適用されないことになっています。しかしながら、医療法人の非営利性の観点から、医療法人の理事長とMS法人の代表取締役の兼務はやはり避けるのが無難でしょう。

2.医療法人の役員とMS法人の役員の兼務(上記1以外)
医療法人では、理事長だけが医療法人を代表することが定款で定められていますので、医療法人の平理事(代表権のない理事)とMS法人の代表取締役の兼務により、医療法人の非営利性が必ず阻害されるわけではないと思われます。そして、医療法人の理事長とMS法人の平取締役の兼務によっても、医療法人の非営利性が必ず阻害されるわけではないでしょう。法律上、医療法人とMS法人でのこれらの役員の兼務が禁じられてはいません。
しかしながら、医療法人とMS法人の取引で医療法人からMS法人に過大な支払いが行われている場合や、MS法人の役員報酬の過大な支払いが行われている場合、事実上医療法人の利益の分配がなされていると解される可能性があります。
このようなことから、現状では、厚生労働省による「医療法人運営管理指導要綱」(要綱)及び「医療機関の開設者の確認及び非営利性の確認について」(通知)に基づき、病院又は老人保健施設等を開設する医療法人とMS法人その他取引のある営利法人の役員の重複を認めない行政指導がなされています。そして、医療法人運営管理指導要綱は医療法人のうちで病院又は老人保健施設等を開設するものを対象としているものの、診療所にも同様の指導がなされることがあります。
通知や行政指導は、それ自体は法的拘束力を持たないことから、それらに反して両方の法人の役員を兼務すれば即違法行為となるというわけではありません。しかしながら、両方の役員を兼務すれば行政指導がなされる可能性があることに留意の上で、役員構成を検討する必要があります。
ちなみに、厚生労働省により「医療法人とMS法人間に取引関係のある場合、あるいは医療法人が出資を受けている場合は原則兼務を認めない」という以後の方針が示唆されています。

Copyright© 2014 よくわかる役員報酬・役員賞与 All Rights Reserved.